ケルティックジュエリー&クラダーリング専門店【ボウディッカ】

ケルティックデザイン史概説

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天使のわざ

ブリテン諸島の貴金属工芸は、今を遡ることおよそ2400年の伝統に培われてきたものです。

新石器時代、多産や豊穣を祈り超自然の力を身に帯びるための「まじない」から始まり、木や石に、道具や戦闘用の武器に、また肌に直接ボディペインティングやタトゥーとして、渦巻きや組み紐の不思議な文様を刻んだり描いたりしたのでしょう。それはやがて権力や経済的繁栄を示す装身具(アクセサリー)に発展しました。アイルランドではウィックロウ山中の川で砂金が採れたので、早くも紀元前1500年頃には、右上図の切手に描かれたような黄金のゴージェット(胸飾り)が、大量生産されてヨーロッパ各地に輸出されていたらしい痕跡があります。

アイルランド北部のアルスター地方を中心に、紀元前3世紀頃より、ラテーヌ様式の宝飾技術がアイルランド独自の発展を遂げました。その後、すぐ隣のブリタニア(今の英国)までローマ帝国によって植民地化されたり、スカンディナヴィア人やアングロ・サクソン人が活動範囲を拡大したりといった歴史の大波にさらされたアイルランドの美術工芸は、戦争および平和的交易の両面から、ゲルマン文化、地中海文化、さらに遠くオリエントの諸文化など、ケルト以外の多様な文化の影響を採り入れながら、ますます豊かなものになっていったのです。

キリスト教会の華麗な宝飾聖具の数々が生み出された紀元8~9世紀は、複合文化としてのアイルランド文化が頂点を極めた時代と言えるでしょう。「天使のわざ」the work of angels という言葉は、12世紀のウェールズ人ジェラルド(ジラルドゥス・カンブレンシス)が、アイルランド中世初期の聖書写本「キルデアの書」(現存せず)の装飾文字や挿し絵の美しさを称えた著述の一節から取った言葉ですが、写本装飾や聖具装飾に大きな影響を及ぼしたと考えられる、ブローチ等の王侯貴族の装身具をも指し、暗黒時代のヨーロッパに燦然と輝いたアイルランド工芸の美しさを表現するにふさわしい言葉です。

左の写真は、アイルランド東部(Lagore Crannog, County Meath)で掘り出された、長さ22cmぐらいの何かの動物の大腿骨。「ケルズの書 」(後述)とほぼ同時期、8世紀終わりから9世紀はじめのものと思われます。組み紐文様や動物文様のパターンが彫刻されているのですが、残された数段階のスケッチに、当時の職人がデザイン研究に苦心したらしい跡が見られます。“天使のわざ”にも人間の息づかいや手のぬくもり、職人の汗を感じる証拠物件です。

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